2008年6月9日月曜日

THE_MUSIC

THE_MUSIC」が、4年ぶりのフルアルバム「STRENGTH_IN_NUMBERS」をリリースしました。この作品は帰還を告げるだけでなく、4年のブランクが嘘のような、2008年の時代性をもつ実に堂々としたアルバムです。2002年にデビューアルバム「THE_MUSIC」をリリースし、UKチャートで4位を記録した時のメンバーはまだ18歳でした。今はダンスロック勢に限らず、ほとんどのバンドがビートに対して意識的に取り組み、そこでオリジナリティと革新性を獲得しようと躍起になっていますが、彼らがデビューした当時のUKロックシーンには、そんなことを考えているバンドはほとんどいませんでした。今となっては、同じ年に「House_of_Jealous_Lovers」で世界中のクラブ~ロックシーンを席巻したNYのラプチャーや、UKだとフランツ・フェルディナンドのほうが、2000年ダンスブームのスタートポイントとして語られていますが、実質UKで口火を切ったのはTHE_MUSICだといってもいいでしょう。躍動感溢れる図太いダンスビートの上で、ブルージーでエネルギッシュなハイトーンヴォイスが奔放に暴れまわる様は本当に圧倒的で、それを鳴らしているのが18歳の少年達だとはどうしても信じられませんでした。しかし彼らは2004年にセカンド・アルバムをリリースした後表舞台から消えてしまいました。レーベルから強要されたといわれるヘヴィネス路線やアメリカ進出によって疲弊してしまいバンドは分解状態、核となるメンバーのロブとアダムも鬱になってしまったそうです。それを乗り越えて生み出された今作は、セカンド・アルバムのハードロック路線は葬りさられ、ファースト・アルバムで見せたダンス路線を強力に推し進めた完全ダンスモードなアルバムです。つまりは図らずとも今のシーンにはマッチしているのです。ファースト・アルバムの根拠のない自信にあふれた獰猛性は影を潜めていますが、この4年間に味わった経験が人間的な深みを与えたことを感じさせるロブのヴォーカルは、相も変わらない衝動性と共に、圧倒的な存在感で楽曲を引っ張っていきます。フジロック・フェスティバルで来日するので、そのライブに期待は高まる一方です。

2008年6月8日日曜日

SOIL&PIMP_SESSIONS

SOILの4枚目のフルアルバム「PLANET_PIMP」が先月5月にリリースされましたが、今回の作品は非常にいい意味で肩の力が抜け、気負いのない純粋な音楽的挑戦感を持って作り上げられたのが感じられる作品です。SOILはその音楽の根底にレベルミュージックとしての意識、社会的弱者が自らの存在意義を主張するために鳴らす音楽としての意識と意義を強く持っているバンドで、それがひりひりとした音の闘争性の強さや爆発力に結びついています。過去にジャイルス・ピーターソンのレーベルからリリースを果たし、今や世界各地のイベントに引っ張りだことなったという事実は、彼らの中にひとつの達成感を生み、また別の角度から自らの音楽を見つめ直す機会を与えたのだと思います。代名詞となった爆音ジャズから、今まで以上にジャズのフォーマットを無視したヒップホップ以降のビート感の曲、静かに揺らぐグルーブの中に鋭い音像を差し込むミドルテンポの楽曲、あるいはクラシカルなジャズマナーを感じさせる楽曲など、音楽性の幅がぐんと上がり、より奔放に魂をぶつける自由な音楽が実現しています。このアルバムの曲目は、1曲目「I.N.T.R.O」、2曲目「Hollow」、3曲目「STORM」、4曲目「Fantastic_Planet」、5曲目「GO_NEXT!」、6曲目「Darkside」、7曲目「Sea_of_Tranquility」、8曲目「The_world_is_filled_by...」、9曲目「Khamasin」、10曲目「Struggle」、11曲目「ミンガスファンクラブ」、12曲目「Mars」、13曲目「SATSURIKU_Rejects」、14曲目「Sorrow」です。たった1分弱の曲「ミンガスファンクラブ」を聴いて納得したのは、型破りなベーシストであった異端児、故チャールズ・ミンガスへの敬意を込めたハイスピードの爆音ジャズが彼らの音楽性を包括していることです。いつの時代もジャズが時代の最先端を行く型破りな発送と手法とパフォーマンスを演出し得るものだということを教えてくれるバンドが彼らであり、このアルバムではジャズへの愛と情景がより素直に表現されていて、非常に気持ちがいいです。

2008年6月7日土曜日

WALDORF_Blofeld

昨年から復活をとげたWALDORFから待望の新シンセサイザー「Blofeld」が登場です。こちらは伝統のウェーブテーブル波形68個で特異な音作りができます。寸法はW304×H54×D132mmととても小さく一般的なものよりも二回りくらいは小さいです。ボディはメタル製でノブはステンレス製、持ち運びに困ることはないですが、ずっしりとした重量感と質感がたまらない魅力を放っています。また目を引く大きな液晶パネルの視認性も良好です。現在どのパラメータを触っているのか、エンベロープ・カーブがどのように描かれているのかがグラフィカルに表示されるので一瞬で把握できます。背面はMIDI_IN、USB端子、ステレオアウトプット、ヘッドフォン、とシンプルな構成です。USBは標準ドライバーを使用したMIDI入力端子として使えるので、面倒なセットアップもなく、接続すればすぐにしようできるというやさしさも持っています。今回の製品は、この小さなボディに同社のお家芸とも言える、ウェーブテーブルや高品位なフィルター、モジュレーション・マトリクス、16マルチティンバーなどさまざまな要素を取り込んだシンセ・ファン待望の一台となっています。初めから入っている膨大な量のパッチはなんと1000以上で、これらはカテゴリー・サーチ機能によって簡単に目的の音色に辿り着くことができます。音源部には通常のオシレーター波形ももちろん搭載されていますが、やはり魅力的なのは68個にわたるウェーブテーブル波形です。複雑に変化するウェーブテーブルの音はこのWALDORFのシンセサイザーでしか味わえない独特なものです。キラキラ光るパッドやうねるSE音など特徴的なサウンドを作り出すことができます。加えて通常のオシレーター波形が使用されたサウンドもすばらしい出来で、特筆すべきは、高品質なフィルターを装備していることです。フィルター・タイプもローパス、ハイパス、バンドパス、ノッチに加えて2つのコムフィルター、さらにPPGローパスも装備しており、1ボイスごとに2つ設定することができます。それらを直列にするか、並列にするか、などを柔軟に設定可能で、フィルターだけでも複雑なサウンドを作ることができます。小さなボディにこれだけの機能を詰め込んでいて、他のシンセサイザーとは完全に違う個性を持った本機。この一台があるだけで制作の幅は格段に広がるでしょう。

2008年6月6日金曜日

monobright

ライヴを念頭に作成された前作「WARP」でストレートなロックを打ち出したモノブライトが一転、初夏の風を感じるミニアルバム「あの透明感と少年」をリリースしました。夏は似合う感じはしていましたが、これまでは熱帯地方というイメージだったのが、この作品では爽やかな初夏のようです。胸がきゅんとするようなラヴソング「夏メロマンティック」や、故郷を思って作り上げたという「旅立ちと少年」などは「music_number」を彷彿とさせるミドルナンバーです。今回、SEが効果的に使われている「幽霊」はコンセプトアルバムだからこそ聴ける、実験的な楽曲です。タイトルトラックの「あの透明感と少年」の中で大人の歌詞を綴りつつも、その後に純愛な曲が続いているのがモノブライトらしいところです。収録曲は、全6曲、1曲目「あの透明感と少年」、2曲目「boy」、3曲目「夏メロマンティック」、4曲目「旅立ちと少年」、5曲目「幽霊」、6曲目「雲男」です。インディ時代のミニアルバム「monobright」から一貫してヴィヴィッドな色使いとメリハリの効いたモチーフをジャケットに用いてきたこれまでの作風から一転、濃淡のある淡い色と抽象的なモチーフによる、彼ららしくない印象画をジャケットに掲げるこの作品は、サウンド的なことに限って言えば、実は見かけほど新しい挑戦がなされているわけではありません。一曲を貫くキーボードが柔らかに曲を躍動させていく「夏メロマンティック」は昨年発売したファースト・アルバムの中に入っていても不思議ではないカラフルなポップソングであり、カントリーフォークのような「旅立ちと少年」も、モノブライトのロックのルーツを想像すればそんなに違和感のある曲ではありません。だからこそ、尚更、歌が歌としてまとまっている感じは、明らかにこれまでのモノブライトにはありませんでした。同じ事をやっても衝動を衝動として打ち出していたこれまでのモノブライトとはそういった意味での変容を遂げているといえるでしょう。このミニアルバムから感じる爽やかさは、そういったところからきているのでしょう。

2008年6月5日木曜日

KAIKOO_MEETS_REVOLUTION

仙台で「ARABAKI_ROCK_FES」が開催され、今年もロックフェスシーズンが到来したのを告げたのと同じ日、4月26日と27日に、横浜で新たなフェスが誕生しました。その名も「KAIKOO_meets_REVOLUTION」。DJ_BAKUさんと、曽我部恵一さん、ザ・ブルーハーブ、バック・ドロップ・ボムなど、ジャンルもメジャーもアンダーグラウンドも関係なく、ただ音楽を通して自己表現を行っている、言い換えれば音楽と生きることがイコールになっているという点でつながるアーティスト達が、音を響かせるというひとつの目的の下に集まったフェスティバルです。商業エンターテイメントとしてのフェスではなく、アート、自己表現を通じて音楽を発信する場としてのフェスとして、人と音、人と人とのコミュニケーションが生まれる場所を作ること、そしてそこに宿る純粋なエンターテイメント性を大切にすることに徹底的にこだわって運営されたフェスティバルです。夏になればほぼ毎週末、日本のどこかでフェスが開催されるようになった現在ですが、これだけ様々なジャンルのコアを担うアーティストがまったく同列に並び、ストイックな表現としての音楽の多様な生き様をきっちり提示しようという意志をもったフェスはほとんどありません。この「KAIKOO_meets_REVOLUTION」の会場になったのは、横浜中華街のすぐ隣に位置する横浜ZAIMというビルで、元々は旧関東財務局および旧労働基準局の建物です。ひとつひとつの部屋をうまくつかい、2Fにふたつのステージ、3Fにステージとフードスペースおよびアートスペースと物販スペースそして4FにもステージとNPOスペースを設け、ひとつのビルの中に合計4つのステージを作り出していました。ライブは両日とも12時くらいから22時くらいまで行われ、ジャンルもまったく関係のない全85組が、それぞれの思いや主張を様々な形の音と言葉に変換し、自由かつ気合の入ったパフォーマンスを繰り広げました。このフェスが明確に公言しているのが、邦楽メジャーフェルに対するアンチラーゼです。ビッグフェスが光を当てないオルタナティヴなシーンをリスナーに提示することで、この国の音楽をもっと何とかしていきたいという気持ちで運営されているのです。

2008年6月4日水曜日

LITE

LITEというバンドは日本のバンドにしてはとても音楽性の高いバンドで、インスト・バンドとしての新しい価値観をいちいち握っています。まず、音に思春期性があるということです。レイヴ的な音が耳に残るパンクのような精神性を持っており、跳ねるように、透明感を求めてこの衝動轟音世界を描いているのだと思います。ハードコアとビートロックが分かり合えない場所でお互い線を引いていた時代には絶対にに生まれることがなかったであろう、カジュアルな姿勢によるヘビーなサウンドとアンサンブル。中にはサンバリズムを取り入れてまでダンスの快楽性を導入しているものまであります。2本のギターとベースとドラムからは、一緒の景色をみようというメッセージを投げかけられているようでもあり、この無垢なプレイヤビリティはラジカルな異物を生み出したようにも感じます。5月21日に発売されたLITEPhantasiaというアルバムはポップソングしか聴かない人たち、歌謡曲しか聴かない人たち、そんな人たちに深く眠る「もっと音楽を楽しむ」といいう潜在能力を引き出す。LITEの視点はそんなところにあるような気がします。感情の起伏を音楽と共に楽しむ。それが音楽の楽しみ方の一つで、それが映画音楽ではない、ビジュアルのないインスト音楽の醍醐味だとしたらLITEの方法論は非常に険しいですが、明らかな方向性を見ることができます。インストロックとして、ベースが歌い、ギターが渦巻いて、ドラムが叩き切る。それが情熱だったり、悲しみだったり、切なさになったりしています。1曲目の「Ef」から始まり、2曲目「Contra」、3曲目「Infinite_Mirror」、4曲目「Shinkai」、5曲目「Black_and_White」、6曲目「Interlude」、7曲目「Ghost_Dance」、8曲目「Solitude」、9曲目「Phantasia」、10曲目「Fade」、11曲目「Sequel_to_The_Letter」まで全て抜かりのない仕上がりとなっています。プログレッシブな楽曲の構成力といい、演奏の切れ味といい、実にスリリングで圧巻の一言です。

2008年6月3日火曜日

THOM_YORKE

レディオヘッドのTHOM_YORKEさんがニュー・リミックス・アルバム「THE_ERASER_RMXS'」を発表しました。最近、THOM_YORKEさんがレディオヘッドとソロプロジェクトで、楽曲的な最先端とかレコーディングやミックスの定義とかではなく、音楽産業という枠組みの中での様々な定義付けに必死に取り組んでいるような気がします。過去Internetで行われた「In_Rainbows」のセリに近いユーザー値決め配信や、今回のREMIXにしろ、大きな道筋を作ろうとしているのは確かです。このアルバムの意味合いは、レディオヘッドのパッケージに対しての取り組みとは違ってもっと作品目線での取り組み、つまり極め通例なやり口な感じがします。THOM_YORKEさんが起用したクリエイターは、まぎれもなく超一流のアイデンティティを持つアーティスト達で、そんな人達がTHOM_YORKEさんの作り出した作品に手を加えるという事は、それを聴くユーザー側からすれば感激に至るものであります。Fourtetが「Atomos_For_Peace」のリミックスを手がけたということは、このアルバムの中で大きな意味をもち、天才と天才達が交じり合うことによって作り出される世界観は唯一無二の存在感を放っています。このアルバムの楽曲名を挙げると、1曲目「And_It_Rained_All_Night」(Burial_Remix)、2曲目「The_Clock」(Surgeon_Remix)、3曲目「Harrowdown_Hill」(The_Bug_Remix)、4曲目「Skip_Divided」(Modeselektor_Remix)、5曲目「Atoms_For_Peace」(Fourtet_Remix)、6曲目「Cymbal_Rush」(The_Field_Late_Night_Essen_Und_Trinken_Remix)、7曲目「Black_Swan」(Cristian_Vogel_Spare_Parts_Remix)、8曲目「Analyse」(Various_Remix)、9曲目「Black_Swan」(Vogel_Bonus_Beat_Eraser_Remix)の9曲全てが当然リミックス曲です。これらの作品は数々のアーティストに楽曲のアイデンティティをゆだねているにもかかわらず、THOM_YORKEさんが本来もっているであろうと想像できる世界観としての「音世界、音色、音空間」が根底の部分でリンクしています。

2008年6月2日月曜日

Yuuko_Andou

1曲しか聴かないと分からないけれど、アルバムで聴くと安藤祐子という人は曲によってくるくると声の印象が変わる人だと気づきます。5月21日に発売したアルバム「Chronicle」でも、「感謝」について歌うピンと張りつめた1曲目からはじけた感じの2曲目に移るときなど、すごいギャップを感じます。本来曲によって声の印象が変わるというのは歌い手にとってはあまりいいことではないはずです。それはつまり自分の声を持っていないことを意味するからです。安藤祐子さんという歌い手のすごいところは、曲によって声の印象が変わることが欠点になるどころか、むしろ彼女の表現者として誠実な姿勢、フェアさのあらわれだと感じられるところです。表現世界の真ん中に自分という存在をおいていない、かといって中心がないのではなく、不安定に揺れながら少しでも確かなものにちかづこうとしている。そんなアート色の強い女性シンガーです。アルバム「chronicle」の曲構成は、1曲目「六月十三日、強い雨」、2曲目「HAPPY」、3曲目「水玉」、4曲目「美しい人」、5曲目「海原の月」、6曲目「お祭り~フェンスと唄おう~」、7曲目「Hilly Hilly Hilly」、8曲目「鐘が鳴って門を抜けたなら」、9曲目「再生」、10曲目「たとえば君に嘘をついた」、11曲目「パラレル」、12曲目「ぼくらが旅に出る理由」、13曲目「さよならと君、ハローと僕」の全13曲です。今までの作品にはない突き抜けたテンションのシングル「パラレル」に顕著なように、歌うことが、自己表現でなく歌を届けるための行為に変わったように思います。独特の子供っぽい歌いまわしはほとんど姿を潜め、それに変わって、生が脈々と息づいている凛とした声が迷いもなく、駆け引きもなく放たれています。歌詞も、「いつも逢いたい」、「君がすき」などシンプルで根源的なフレーズが多く、ストレートな気持ちをストレートに歌うことを知った今作には、遠まわしな愛情表現を取り払ったようなさわやかな楽曲がそろっています。安藤祐子さんの本音というか、純粋な部分にもっともっと吸い込まれていくような一枚です。

2008年6月1日日曜日

Ikuko_Harada

クラムボンの原田郁子さんのソロ第2作の「ケモノと魔法」。先日発表されたミニ・アルバム「気配と余韻」収録曲の別テイクが2曲収められています。プロデュースは同じで、エンジニアのZAKと原田さん自身で、おそらく同じレコーディング・セッションの流れで制作されたものでしょう。サウンド・コンセプトも「気配と余韻」の世界観をさらに突き詰めたものになると言ってよく、初回盤はブック形式になっており、原田さん自信の描いたイラストがえがかれています。クラムボンのハイテンションなツアーすべてを出しつくし、抜け殻のようになってしまったという原田さんは、ゆっくりとリハビリを重ね、さながら冬眠から目覚めるがごとくこのアルバムを作ったのでしょう。原田さんのピアノ、ボーカルと、生ギターなど最低限の伴奏楽器だけが鳴ります。全体に流れるトーンは決してにぎやかなものではなく、むしろひんやりとした孤独感がが強く漂っています。空間を生かしたシンプルにして奥行きのある音像は、いかにもZAKさんの仕事らしいと思います。パーティーのあとの静寂と余韻、朝のけだるい空気の中をゆっくりと立ち上るコーヒーの香のような日常感覚。その中心で鳴るのはピアノです。3年前のソロ第一作のタイトルが「ピアノ」で、本作には原マスミさんのカヴァー「ピアノ」が収められています。これらはすでに原田さんのライブでは何度も演奏されている曲で、原田さんはピアノという楽器に思いいれがあるのでしょう。それは、原田さんの音楽家としての出発点は歌ではなく、ピアノにあるからです。マル・ウォルドロンに影響をうけたという原田さんのピアノ・プレイは、ここでは決して声高ではなく、飾り気もありませんがただ深いニュアンスを含んでおり、それは彼女のヴォーカルと完全に見合っています。原田さんの声は、声量がないのでミックスの段階でかなりレベルを上げなければ、喧噪なノイズの中に埋もれてしまうのですが、彼女は無理をせず、自然に歌います。その周囲で鳴るすべてがひっそりとしたつぶやきのような原田さんの声に優しく寄り添っていて、ピアノとのバランスは完璧です。しかし、これはクラムボンでの原田さんがあってこそここで魅力的な存在に写ることを覚えておきたいものです。